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東京地方裁判所 昭和39年(刑わ)1770号 判決 1966年3月31日

主文

被告人青柳弘一および同小澤三男を各懲役一年二月に、同青柳健三を懲役一年六月に処する。

ただし、被告人小澤三男に対し、この裁判が確定した日から三年間右の刑の執行を猶予する。

訴訟費用中、証人上野東城、同小林和安、同岡田俊直、同杉本昭、同橋本重信、同山田恒造および同関信雄に支給した分は被告人小澤三男の負担、証人青柳正二および同甘利文子に支給した分は被告人三名の、証人遠藤基に支給した分は被告人青柳弘一および同青柳健三の各連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

厚和電機株式会社は、東京都大田区南千束町五十六番地に本店を、同区北千束町五百四十八番地に工場を有し、主として電気機械器具、特に特殊小型モーター類の製造販売を目的とする会社であつて、昭和三十二年二月二十八日設立登記がなされたが、資金ぐりに窮したすえ、同三十四年十二月十四日銀行取引停止となり、さらに同三十五年三月十五日東京地方裁判所から破産宣告を受け、同年四月七日右宣告が確定した。

被告人青柳弘一は右厚和電機株式会社の代表取締役であつたもの、同青柳健三はその実弟であつて弁護士、同小沢三男は計理士、司法書士兼税理士であつて、各種の会社の経営をもしていたものであるところ、被告人三名は、右厚和電機株式会社が前記のように銀行取引停止となり、破産宣告を受けるにいたることを予知するや、自己の利益をはかり、同会社の一般債権者を害する目的をもつて、

第一、被告人三名は、共謀のうえ、一般債権者に秘して右厚和電機株式会社の第二会社を設立して、その営業を継続しようとの意図のもとに、

一、同会社の債権者の権利行使の形式を用い、差押、競売の方法によつて、同会社の機械器具類を隠匿しようと企て、昭和三十四年十二月二十二日、東京都千代田区日比谷公園内東京法務局所属公証人鶴比左志役場内で、同公証人に依頼して、真実被告人小澤三男から債権を譲り受ける意思も、またその債権を取り立てる意思も有しない同被告人の知人佐渡佐太郎を債権者とし、厚和電機株式会社を債務者とし、右両者の間に四百八十九万八千二百円の債務弁済契約公正証書(昭和三十九年押第一三〇二号の二)を作成せしめ、右公正証書にもとづき、東京地方裁判所執行吏関信雄に委任して同三十五年一月十一日、同会社の前記工場内にあつた機械工具、什器、備品等合計百十八点(時価合計約二百六十万円相当)を差し押え、これを同月十九日、被告人青柳健三の知人近藤新一に依頼して代金四十九万五千円で競落させたうえ、同月二十四日頃から同月二十七日頃までの間、同工場内にあつた右競落物件およびモーター類、同部品、電線類等差押以外の物件(時価合計約百六十万円相当)を、被告人小澤三男が代表取締役をしている同都板橋区幸町六十三番地所在理研電気株式会社工場内にトラツク等で搬入し、もつて将来右厚和電機株式会社の破産財団に属すべき前記財産を隠匿し、

二、前記佐渡佐太郎が厚和電機株式会社から同会社が取引会社に対して有する債権を譲り受け、これを実行する形式によつて、同会社の売掛代金債権を取り立てようと企て、昭和三十四年十二月二十七日、同都杉並区中通り二百七十三番地所在荻窪郵便局から、別表一記載のとおり、川崎航空機工業株式会社ほか十五社に対し、「厚和電気株式会社が貴社に対して有する同日現在の売掛代金債権を佐渡佐太郎に譲渡したから通知する」旨の被告人青柳弘一名義の債権譲渡通知書(同押号の九ないし二五)を内容証明郵便で発送し、厚和電機株式会社が前記川崎航空機工業株式会社ほか十五社に対して有する別表一記載の売掛代金債権合計二百二万二千六百九十二円中百九十五万五千七百九十二円を佐渡佐太郎に譲渡したことを通知したうえ、別表二記載のとおり、同三十五年三月十日頃、金沢市北安江町六百八十八番地金沢産業株式会社から、買掛代金債務の履行として、同会社振出、北国銀行武蔵ケ〓支店同年十一月二十一日支払の金額十八万円の約束手形一通を被告人小澤三男の肩書住居で受領したほか、同三十四年十二月三十日頃から同三十五年二月二十四日頃までの間、前後四回にわたり、同都江東区大島町三の四百七十五番地大一自動車株式会社ほか三社から金額合計二十五万三千円の約束手形二通および小切手二通を前同様の趣旨で受領して、被告人等においてのみ前記債権を確保し、もつて将来厚和電機株式会社の破産財団に属すべき右財産を同会社の一般債権者の不利益に処分し、

第二、被告人青柳弘一は、厚和電機株式会社の従業員の給料等の支払に窮した結果、昭和三十五年一月十四日頃、同会社の前記工場内にあつた同会社所有のインバーター一台を遠藤久四郎をして同都千代田区神田仲町二丁目十一番地所在東京電気精機株式会社に代金四万九千円で売却させ、もつて将来厚和電機株式会社の破産財団に属すべき右財産を隠匿し、

第三、被告人青柳健三は、弁護士として他人より依頼を受けて訴訟等に従事するほか、事件関係者より事件関係の金員を預り、これを委託の趣旨に従つて処理する業務に従事していたものであるが、前記のように厚和電機株式会社が銀行取引停止となり、破産宣告を受けるにいたることを予知するや、自己の利益をはかり、同会社の一般債権者を害する目的をもつて、同会社所有の約束手形等を横領しようと企て、

(イ)  昭和三十五年一月二十一日頃、被告人青柳弘一から受領した同会社所有の別表三記載の東亜精工株式会社ほか六社振出の約束手形八通(金額合計百四十二万六千三百円)

(ロ)  同年一月二十六日、同栄信用金庫銀座支店から受領した厚和電機株式会社所有の別表四記載の東亜精工株式会社ほか三社振出の約束手形五通(金額合計五十五万三千五百円)

(ハ)  同年二月四日、日本相互銀行西小山支店から受領した厚和電機株式会社所有の別表五記載の帝国電波株式会社ほか一社振出の約束手形二通(金額合計二十四万二千四百円)および同銀行同支店振出の金額六万八千九百六十四円の小切手一通

(ニ)  同月五日、東京都民銀行蒲田支店から受領した厚和電機株式会社所有の別表六記載の日栄無線株式会社ほか一社振出の約束手形二通(金額合計十五万円)

以上約束手形合計十七通および小切手一通(金額合計二百四十四万一千百六十四円)を、被告人青柳弘一より、厚和電機株式会社の第二会社を経営する資金に充てる趣旨で預り右厚和電機株式会社のために業務上保管中、これを別表三ないし六記載のとおり、昭和三十五年二月六日頃から同年四月七日頃までの間、前後十五回にわたり、ほしいままに自己の用途に充てるため、自己が開設した同都中央区日本橋室町三丁目二番地所在千葉銀行東京支店の前記近藤新一名義の普通預金に入金して着服横領し

もつて債務者にあらずして将来厚和電機株式会社の破産財団に属すべき右財産を隠匿し

たものである。

(証拠の標目)(省略)

(確定裁判)

被告人青柳弘一は、昭和四十年五月二十八日東京高等裁判所で、詐欺罪により懲役三年(五年間執行猶予)に処せられ、この裁判は同年六月十二日確定したものであつて、右の事実は、同被告人の当公判廷での供述および検察事務官作成の前科調書によつて、これを認めることができる。

(被告人および弁護人の主張)

被告人青柳健三およびその弁護人の主張

一、判示第一の事実について

被告人小澤三男と佐渡佐太郎との間の判示債権譲渡は有効であり、従つて判示債務弁済契約公正証書もまた真正に成立したものであるところ、被告人青柳健三は、債権者である佐渡佐太郎より右債権の取立を委任されたので、同人の代理人として判示第一、一記載のように右公正証書にもとづき、執行吏に委任して厚和電機株式会社の有体動産の差押、競売をしたうえ、これを適法に競落し、かつ同会社が取引会社に対して有する売掛代金債権を債権者佐渡佐太郎に譲渡したうえ、判示第一、二記載のように同会社の売掛代金債権の取立をしたものであるが、債権者は、債務者が破産宣告を受けるまではその権利行使が許されるのであるから、被告人青柳健三の右の行為は破産法違反の罪を構成するものではない。また、判示第一、一記載のように、競落物件等を判示理研電気株式会社に搬入したのは、厚和電機株式会社の生産を継続するためその工場を被告人小澤三男の経営する右理研電気株式会社の工場内に移転したものにすぎず、債権者を害する目的もなく、また将来厚和電機株式会社の破産財団に属すべき右財産を隠匿したものでもない。

二、判示第三の事実について

判示第三記載の約束手形十七通および小切手一通は、被告人青柳健三が債権者佐渡佐太郎の代理人としての資格において債務者会社の代表者である被告人青柳弘一から任意弁済を受けたものであつて、同会社所有の右約束手形等を同会社のために業務上保管していたものでもなく、また将来同会社の破産財団に属すべき右財産を隠匿したものでもない。右約束手形等を債権者である佐渡佐太郎に渡さなかつたのは、同人および被告人小澤三男の同意をえたうえ、これを被告人青柳健三に対する佐渡佐太郎の弁護士報酬金および被告人小澤三男の債務不履行による損害賠償金等に充当するためである。

被告人青柳弘一およびその弁護人の主張

一、判示第一の事実について

被告人三名の判示第一の行為は、被告人青柳健三およびその弁護人の主張するとおり、債権者の適法な権利行使であつて、詐欺破産罪には当らない。かりにそうでないとしても、被告人青柳弘一は、法律家である弁護士青柳健三の指示に従い、適法な行為であると信じてこれに関与したものであるから、犯意がない。

二、判示第二の事実について

被告人青柳弘一が判示インバーター一台を他に売却したのは、当時同被告人の経営していた厚和電気株式会社の従業員に対する給与金等の支払に迫られていたため、これを捻出する手段としてやむなく行つたものであつて、将来同会社の破産財団に属すべき右財産を隠匿する犯意はなかつた。

被告人小澤三男およびその弁護人の主張

一、判示第一、一の事実について

被告人小澤三男は厚和電機株式会社に対し多額の債権を有していたが、同会社が銀行取引停止になつた後、被告人青柳弘一、同青柳健三の両名より、同会社の再建方法としていわゆる第二会社の設立につき協力方を求められてこれを承諾し、その具体的方法、手続等については被告人青柳健三に一任したものであるところ、被告人小澤三男と佐渡佐太郎との間の債権譲渡ならびに判示債務弁済契約公正証書および右証書にもとづく差押、競売はいずれも有効であるところ、被告人小沢三男は、右競売に際し、同青柳健三の要求により、競落代金として現金百万円を同被告人に交付し、みずから競落人となつて判示競落物件の所有権を取得したものと信じて、これを自分の経営する判示理研電気株式会社の工場内に搬入したものであつて、将来厚和電機株式会社の破産財団に属すべき右財産を隠匿する犯意はなかつた。また、被告人小沢三男が右理研電気株式会社の工場内に搬入した物件中に競落物件以外のものがあつたとは考えられず、かりにこれがあつたとしても、同被告人は、終始差押物件、競落物件の目録を示されていないのであるから、競落物件とそれ以外の物件との区別がつかなかつた。

二、判示第一、二の事実について

被告人小澤三男が回収取得した厚和電機株式会社の売掛代金債権は四十三万三千円であるが、これは、同被告人の同会社に対する債権額との比率において、他の破産債権者が受けるべき配当金に比し平等を超える金額ではなく、従つて、同被告人において、自己の利益をはかる目的も、一般債権者を害する目的もなかつたものである。

(当裁判所の判断)

一、被告人青柳健三およびその弁護人の主張一、被告人青柳弘一およびその弁護人の主張一ならびに被告人小澤三男およびその弁護人の主張一、二について

被告人等は、いずれも判示第一の被告人等の行為が、厚和電機株式会社の債権者ないしその債権の譲渡を受けた者の同会社に対する正当な権利行使であつて、破産法第三百七十四条の罪に該当しない旨主張している。もちろん支払停止後といえども、債権者の側からする正当な権利の行使は、破産法上の否認権の対象となるは格別、必ずしも同法の禁止するところではないけれども、支払を停止された債務者が自己もしくは他人の利益をはかり、または債権者を害する目的をもつて、将来破産財団に属すべき財産を隠匿し、あるいはこれをもつて特定の債権者に対し、その債務の一部または全部を弁済したときは、同法条の罪を構成するものと解すべきである。

そこで本件についてこれを見ると、第四回および第九回各公判調書中、証人佐渡佐太郎の供述記載は、全面的にはこれを信用することはできないけれども、これと判示第一の事実に対応する前記各証拠を総合すると、被告人小澤三男が厚和電機株式会社に対し債権を有していたこと、右佐渡佐太郎が、判示債務弁済契約公正証書に債権者として署名押印したこと、内容空白の委任状用紙に押印し、同人の印鑑証明書とともにこれを被告人青柳健三に交付したこと、および後記委任状(昭和三十九年押第一三〇二号の四八)に同人の署名押印があることは認められるが、右のような行為をなした佐渡佐太郎には、計理士として、関係している会社の経理事務や会社設立の手続を取り扱つている被告人小澤三男が、佐渡の名を使つて債権を取り立てたり、会社の整理をしたりするのであろうという程度の認識があつたにすぎず、真実同被告人の前記債権および厚和電機株式会社が有する前記売掛代金債権を譲り受ける意思も、前記公正証書および委任状にもとづいてみずから右債権を実行し、これを回収取得する意思もなく、近藤新一においてもまた、前記差押物件をみずから競落取得する意思はなかつたものと認めるのが相当であり、一方、被告人等が前記のように、被告人小澤三男の債権および同会社の売掛代金債権を佐渡佐太郎に譲渡したうえ、前記公正証書および債権譲渡通知書における債権者を同人とし、さらに近藤新一に依頼して前記競落物件を競落させたのは、いずれも被告人小澤三男がみずからその債権を実行し、あるいは差押物件を競落し、売掛代金債権を取り立てるということを他の一般債権者に秘するためであつたことが認められる。また、前記各証拠によれば、被告人青柳健三において、右競落物件を競落人である近藤新一よりさらに他に売り渡す旨の売渡証(同押号の四四)を作成していたこと、被告人小澤三男において、昭和三十五年一月十三日、同青柳弘一が同会社の代表取締役を辞任し、同日岡田俊直が同会社の代表取締役となり、同月十八日、同会社の本店を判示場所から東京都板橋区栄町十九番地に移転した旨の株式会社変更および本店移転登記申請書(同押号の四)を東京法務局大森出張所宛に提出し、その旨の登記をしたこと、右岡田俊直は、被告人小澤三男より電話で「君に迷惑はかけないから、厚和電機株式会社の代表取締役として名前を貸してもらいたい」旨の依頼を受け、これを承諾したものであること、また、判示第一に認定したように、被告人青柳健三と共謀して、一般債権者に秘して同会社の第二会社を設立しその営業を継続しようとした被告人青柳弘一および同小澤三男は、その目的遂行に必要な前記公正証書の作成、差押、競売、厚和電機株式会社の売掛金債権の取立等の法律上の手続については、弁護士である被告人青柳健三にこれを一任していたものであることなどの事実が認められる。そこで、被告人等が厚和電機株式会社の第二会社設立の意図のもとに行つた右認定のような債権譲渡、債務弁済契約公正証書の作成、これにもとづく同会社の機械器具等の差押、競落、競落物件等の理研電気株式会社工場内への搬入、さらに厚和電気株式会社の売掛代金債権の譲渡とその取立等の一連の行為とその態様を全体として観察すれば、債務者会社の法定代理人である被告人青柳弘一について、自己もしくは他人の利益をはかり、または債権者を害する目的をもつて、判示第一、一記載のように、将来同会社の破産財団に属すべき同会社の財産を隠匿し、また判示第一、二記載のように、これを他の債権者の不利益に処分したものとして、破産法第三百七十六条、第三百七十四条第一号の罪が成立するものと認めざるをえない。

そうして、債務者が右法条の罪を犯すに当り、債務者の身分を有しない者がこれに加功した場合には、たとえその者が債権者であつても、刑法第六十五条により、その共犯が成立するものと解すべきところ、被告人青柳健三および同小澤三男の両名は、前記認定のように、債務者会社の法定代理人である被告人青柳弘一の前記法条の罪に加功したものであるから、その共犯の責を負うべきことは明らかである。

二、被告人青柳弘一および弁護人の主張二について

たとえ被告人青柳弘一が判示第二のインバーター一台を他に売却したことが、当時同被告人の経営していた厚和電気株式会社の従業員に対する給与金等の支払に迫られ、これを捻出する手段としてやむなくなされたものであるとしても、これが「自己もしくは他人の利益をはか」つたことに該当することは明らかであるのみならず、これをもつて同被告人において、将来同会社の破産財団に属すべき財産を隠匿する犯意がなかつたものとすることはできない。

三、被告人青柳健三およびその弁護人の主張二について

前記認定のように、佐渡佐太郎には、真実被告人小沢三男の厚和電機株式会社に対する債権および同会社が有する売掛代金債権を譲り受ける意思も、その債権を実行し、これを回収取得する意思もなかつたものであるところ、前記認定事実および前記第一の事実に対応する各証拠によれば、被告人青柳健三は、右佐渡の真意を十分諒知していたことは明らかである。

従つて、第九回公判調書中証人佐渡佐太郎の供述記載および押収中の委任状(同押号の四八)によれば、佐渡が「厚和電機株式会社に対する貸金四百八十九万八千二百円の取立に関する一切の件を代理人弁護士青柳健三に委任する」旨の右委任状に署名押印した事実は認められるけれども、同人の右意思表示はその効力を有しないものというべきである。また、同人と被告人青柳健三との間に弁護士報酬金に関する話のあつたことを認めるに足りる証拠はないのみならず、前記認定のように、債権を譲り受けたことによつてなんらの現実の利益をも受けることのない同人が、被告人青柳健三に対して弁護士報酬金を支払うべきものとは到底考えられない。さらに、前記各証拠によつても、被告人小澤三男が同青柳健三に対し債務不履行による損害賠償の責を負つていたという事実は、これを認め難い。

従つて、判示第三記載の約束手形および小切手は、被告人青柳健三が債権者佐渡佐太郎の代理人としての資格において債務者会社から任意弁済を受けたが、右佐渡の弁護士報酬金および被告人小澤三男の債務不履行による損害賠償金に充当するため、これを右両名に交付しなかつたものであるとの前記主張は理由がない。

以上の理由により、被告人三名およびその弁護人等の主張は、いずれもこれを採用することができない。

(法令の適用)

被告人青柳弘一の判示第一および第二の行為は破産法第三百七十六条前段、第三百七十四条第一号(第一については刑法第六十条をも適用)に当るが、右は前記確定裁判のあつた詐欺罪と刑法第四十五条後段の併合罪なので、同法第五十条によりまだ裁判を経ない判示破産法違反の罪についてさらに処断することとし、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役一年二月に処し、

被告人青柳健三の判示第一の行為は破産法第三百七十六条前段、第三百七十四条第一号、刑法第六十五条第一項、第六十条に、判示第三の行為中、破産法違反の点は同法第三百七十八条、第三百七十四条第一号に、業務上横領の点は刑法第二百五十三条に当るが、右第三の破産法違反と業務上横領とは一個の行為で二個の罪名にふれる場合であるから、刑法第五十四条第一項前段、第十条により犯情の重い業務上横領罪の刑に従い、これと第一の罪とは同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条本文、第十条に従い犯情の重い業務上横領罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、

被告人小澤三男の判示第一の行為は破産法第三百七十六条前段、第三百七十四条第一号、刑法第六十五条第一項、第六十条に当るので、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役一年二月に処するが、

被告人小澤三男に対しては、情状により刑の執行を猶予するのを相当と認めるので、同法第二十五条第一項により、この裁判が確定した日から三年間右の刑の執行を猶予し、

訴訟費用につき刑事訴訟法第百八十一条第一項、第百八十二条を適用して、主文第三項記載のとおりこれを被告人等に負担させることとする。

そこで主文のとおり判決する。

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